子どもに「できない」をつくらない~森嶋勉さんが大切にする、子ども自身が選び、挑戦する力
― そもそも「チットチャット」(障がいのある子どもたちの運動・発達支援施設)を立ち上げたきっかけは何だったのですか?
色々ありますが、自分がやりたかったというのが一番ですね。もともと公共施設で障害者スポーツ指導員として20年程勤めていたんです。働いているうちに、もっと子どもに深入りしたいと思い独立したんです。そしたら意図せず発達障害の子を持つ親御さんばかりが集まってきました。「こんなに運動にニーズがあったんや」と驚きましたよ。
― よく「自分軸の幸せ」と仰っていますよね。それはどういうことですか?
幸せの定義は人それぞれだと思うけれど、僕らが考える幸せは、まず自分で選べて決められること。そうやって実行して、うまいこといったら次のステージに進む。いかなかったら自己省察する。それを繰り返していると、できない子って一人も出てこないんですよ。自主的にチャレンジして行動を積み重ねるうちに、自然と身体が自分軸になってきます。
― 生徒の意思に任せると指導者側は大変でしょう。
指導者は決まったことをやらせておいた方がずっと楽ですよ。
― でも敢えて子どもが自分で決めたことをさせる。子どもの自主性をどうやって引き出すのですか。
どうしたら良いかわからない子とは一緒に遊んであげます。「このボールはこうやったら面白いんじゃない?」とか何気なく誘導してあげる。指示じゃなくて提案することが大切です。そうすると戸惑っていた子も自分で道具を持ってきて、なんとなくやりだします。これをやったら絶対に身体作りが出来るというプログラムを作っていましたが、子どもたちは見向きもしてくれなかった。それでノープログラム、ノーカリキュラムで行くことに決めたんですよ。
― 利用者主体ということですね。
子どもファーストですが、うちは運動を通じて社会に出るための練習の場ですから、導者ファーストの時もあります。子どもが習熟してきたら時には厳しさも必要です。
― 「できない子は一人もいない」と仰っていますが、そう言えるのはなぜですか?
まず運動の原点は“遊び”ということです。遊びができない子っておらんじゃないですか。本来遊びなんだから、決まった形なんて無い。だからうまく泳がれへん、打たれへんなんて思う必要がない。子どもに「できない」を作る指導は、子どもの権利侵害に等しいですよ。
― それなら子どもは楽しいでしょうね。指導を通して特に感じていることはありますか?
重度のハンディを持った子でも成長するということです。だからお母さんたちに「大丈夫やで、ちゃんと育つから」って言うんですよ。うちのスタイルに順応出来る子は社会に出てもきっと大丈夫。自分ファーストで始まっても、そのうち主導権が指導側に変わることで理不尽さを学んで、うまいことできへんことも体験する。そのことを身体が知ったらさらに育つし、社会にも出られます。
― 子どもに理不尽なことも要求することもあるんですね。
その子の実力ギリギリを体験させます。その間、僕らは見守っていて手を貸しません。そうすると、彼らはやります。この時、実力よりあまり上のことをさせてはダメです。身の丈ギリギリが一番好奇心をそそられるし、やる気スイッチが押されます。その見極めや見立てが大切だし、また難しいですね。
― 教える側が逆に子どもたちから学ぶことはありますか?
学んでばっかりですよ。やりたい放題やられて失敗に終わることもあります。そういう時は「次はこんな作戦があるな」とか「チームでこうやってやろう」と指導者間で話し合う。その連続ですね。自分たちの指導を完璧だなんて思ったら危ない。僕ら自身が学びを止めたり、自分の価値観を揺らがせてしまうと子どもたちはすぐに察知しよります。
― 障害を抱える子どもを持つ親御さんには、どんなメッセージがありますか?
とにかく大丈夫、心配ないよと。バランス良いものをしっかり食べて出して、寝て、太陽浴びて適当に運動しといたら自分体ができます。是非そこは頑張ってほしいと思います。ちゃんと生きよう、ちゃんと生活しようみたいな。
― 「イノチグラス」を子どもたちに使い始めたのは、どんなきっかけですか?
このメガネを発明した灰谷孝という人がもともと僕の友人なんです。経験的に目と体が繋がっていることは分かっていたので、彼から話を聞いて、これはきっと効果があると思いました。イノチグラスは左右で異なる色を含むカラーレンズを使い、その人の見え方や身体の反応に合わせたメガネです。早速うちの施設で試してみたら、目が楽になって耳の聞こえも良くなったり、他の感覚が楽になったりという子が大勢出てきました。まさに眼鏡の形をした支援グッズです。
― イノチグラスを用いて「目育」をなさっていますね。
目は体のバランス感覚と深く関係しますので、見え方が少し変わるだけで体軸が整うことがあるんです。そうやって目と身体を繋いでゆくことを、僕は「目育」と言っています。
― 目と体をつなげると、どんな影響が出てきますか?
脳に余力ができるようです。我々の目は普段、無意識的にたくさんの光を入れているので、実はだいぶ疲れています。光に敏感な子などは、このメガネをかけることで刺激が和らいで、脳に余力が生まれる。脳は命令回路なので、100必要だった力が1とか2で済んで楽になるのだと思います。決して万能の魔法の眼鏡ではありませんが、実際にショッキングな変化が起こるんですよ。
― 一体どんなことですか?
文字を読もうとしなかった子が、突然文字を読み出したり。光に過敏な子にとって白地に黒い文字って一番眩しく感じるのですが、イノチグラスをかけたら背景の白い反射が落ち着いて急に字が見えやすくなって、どんどん読めてしまうとか。そういう子を僕は何人も見ています。子どもの目というのは本来、遠くにピントが当たるように出来ているんですね。それが最近の子は近くばかり見ているでしょう。ゲームをしたり携帯をいじったり。勉強も目が近い。そのせいで目の使い方が不器用になっている。本当は大空の下とか、山の中とか、海辺とか、勝手に遠くにピントが当たる環境で遊んで過ごしたら子どもらしい目に育ちますよ。それは理想ですけどね。子どもの体も目も現代はなかなかピンチな状況です。
― 最後に、これからのハートフルコミュニケーションに期待することを教えてください。
結果を出すにはどんなことでも継続することが大前提ですよね。ですからハートフルコミュニケーションの子育て支援もずっと継続し続けていただきたい。継続は文化ですから、100年、200年と続けていただきたいですね。
(2026年8月8日 オンラインにて収録)
森嶋 勉(もりしー)
児童デイサービス チットチャット・スポーツ塾代表
1963年生まれ
個別運動療育に特化した「チットチャット・スポーツ塾」創設。
大阪市内に3店舗、高槻市に1店舗、常時約700名近い児童が利用。
発達に特性にある子どもらを中心に「一人の子どもも取りこぼさない運動とは」を探求、全ての子どもたちの可能を開くためのからだアプローチを提供中。
発達するメガネ「イノチグラス」を作成する目育士として約1200名近い方がたにイノチグラスを作成。